リチウムイオン電池を復活させる

誰でもできる簡単な方法です

 

 

 

2015年4月3日

 

逢沢 明

 

 

 捨てたと思っていたiPadが出てきたので、充電しようと思ったら、できませんでした。

 

 リチウムイオン電池には「過放電」という現象があります。長く使わないでおくと、電池の残量が少なくなりすぎて、保護回路が働き、充電できないようにしてしまうのです。

 

 なぜそんな仕組みになっているかというと、リチウムというのは、非常に反応性の高い金属で、水に放り込んだだけで爆発します。

 水に入れると爆発するというのは不思議でしょうが、リチウムやナトリウムなどは、水と反応して、高熱を発する金属なのです。燃えます。そんな金属だとお考えください。

 一方、塩化ナトリウム(塩のことです)が安全なのは、ナトリウムと塩素がしっかり結合して。安定しているからです。

 

 そんな危険な物質が電池の材料ですから、リチウムイオン電池は何重にも保護回路で守られているとお考えください。以前はたまに発火事故が報じられたりしましたが、近年はニュースに流れることは少なくなりました。

 

 さて、充電できないときにどうしようということになったのですが、この機会ですから、放ってあったリチウムイオン電池を、家中からいろいろ探し出してきました。

 

 1年間ほど使っていなかったパソコンは、電池残量がまだ4%ほど残っていましたので、問題なく充電できました。3年ほど放っていたパソコンは、電池残量ゼロでしたが、しかし充電できました。

 

 ところが、思いがけず出てきて、これは無理かなと心配したのが、6年以上前のリチウムイオン電池でした。記憶にも残っていなかったものでした。超小型パソコン用の予備電池2個です。パソコンも一緒に出てきたので、それで充電を試みると、1〜2分ほどは充電するのですが、まもなく「消耗」と判定されて、充電回路が停止してしまいます。

 

 インターネットによくある意見は、「電池が劣化してしまっているため、復活は無理で、非常に危険です」というものです。誰かがそれらしく書いた意見を参考にして、孫引きで広まったのでしょう。インターネットに流布する専門的な意見には、その種のものがかなり多いのですが、折に触れて見てきた経験では、かなり高い確率で間違っています。

 

 私は好奇心旺盛な研究者ですから、自分で確かめてみないことには、その種の意見を簡単には信じません。リチウムイオン電池は保護回路で厳重に守っていますから、真に過放電という状態になる前にシャットダウンしているはずです。まだ復活可能な電池にもかかわらず、あきらめてしまう人が多すぎるのではないでしょうか?

 

 つまり、充電できないといっても、ほんとうの過放電状態ではなく、保護回路が充電を阻止しているだけという状態がかなり多いかと仮定しました。「ニセの過放電状態」だということです。電池内部はまだ変質していないかもしれません。

 

 そこで、根気よく充電を繰り返してみました。特殊な器具はいっさい用いません。充電を強制停止されてしまうまで繰り返すだけです。あるいは、少し工夫して、一瞬だけ充電を始めて、すぐにACアダプターを切ったり、電池を取り外してみたりなどです。

 

 何を試みているかというと、単に充電をしてみるだけでなく、電池に軽い電気的ショックを与えてみて、保護回路の保護を回避できないかという考え方です。しかも、短時間程度は充電回路が働いていますから、少しずつ充電されている可能性があります。

 

 10回以上繰り返してから、休止状態だったパソコンを起動したところ、なんと充電回路が停止しないではありませんか。充電が持続していて、停止しなくなりました。ただ、電池残量が0%のままで1時間以上も続きました。それでも見守っていたところ、やがてそれが1%に上がったのです。

 

 希望が出てきました。しかし、危険だといけないので、私がそばにいる時間帯に行いました。時間がかかりましたが、だんだんと電池残量が上がっていきました。30%程度のときに、ACアダプターを外してみましたが、電池からの給電でパソコンがちゃんと動いています。これなら大丈夫だと、100%になるまで充電してしまいました。成功です。

 

 電池残量が100%になったので、その電池による駆動時間を計ってみました。1個目の電池は大容量型でしたし、メーカーの仕様は6.2時間でした。パソコンのディスプレイが点灯している程度の状態で放置してみました。元は新品同然の電池だったからか、なんでもなく目標時間を達成できました。まだ余裕が少しありそうでしたが、目標達成で実験を終わりました。

 

 再充電も行ってみると、メーカーが書いている充電時間プラスアルファ程度で、また残量100%になりました。立派に新品並みの電池として復活したようです。6年以上も放置していた電池でしたが、リチウムイオン電池の長期間にわたる性能維持能力は、かなりあるということがわかりました。

 

 もう1個、その半分の標準容量の電池も残っていましたので、それも復活を試みました。やはり100%充電に成功しましたが、大容量型よりてこずりました。なかなか安定した充電を開始しなかったのです。おそらく並列に2系列の電池が入っている大容量型のほうが、どちらかの系列がまず正常化する確率が高いからでしょう。

 

 それでも何度も充電を繰り返すうちに、やっと充電が続くようになりました。しかし、0%が1%になってからも、だいぶ待たされるので、いったんACアダプターを切ってみると、また0%に戻ってしまいました。しかたなく最初からやり直すと、今度は1%で長く待っていたら、突然「消耗」と判定されて、充電回路が停止してしまいました。

 

 この電池はダメかとがっかりしたのですが、研究者はしつこいです。念のためにもう1度だけ充電を始めてみました。すると、まったく普通のペースで充電が進んでいくではありませんか。そして、あっさり100%に達してしまいました。

 

 ただ、その電池でパソコンを駆動してみると、メーカーの仕様では3.1時間ですが、2時間半弱で終わりました。念のために、もう1度やってみると、やはり同様の駆動時間しかありませんでした。予備でない電池が標準容量だったのと、まだ過放電状態ではなかったので、それでも実験すると、3.1時間を達成しました。予備電池の内部では、なにがしかの劣化が進行しているようでした。ただ、この程度に使えればまずまずですし、再度の充電も普通に行えました。

 

 そんな簡易な実験でしたが、次のようなことがわかりました。なお、あくまで私見にすぎませんから、同じようなことを試される際には、すべて自己責任でお願いします。

 

(1)リチウムイオン電池の「過放電」と呼ばれている現象の多くは、実は保護回路が働いているだけの「ニセの過放電」にすぎないと思われます。

 

(2)6年以上も放置したリチウムイオン電池でも、新品同然の性能を回復する場合がかなりありそうです。リチウムイオン電池の寿命はその程度に長いのです。

 

(3)充電できなくても、根気よく充電を繰り返してみてください。最低10回以上もやっていれば、いつか電池が復活する確率がかなり高いでしょう。

 

(4)充電回路の設計者や、保護回路の設計者の立場でいえば、保護回路が働いている電池を、安全に再充電する回路を設計するのは、腕の見せどころです。そんな回路を採用している製品がかなり多いでしょう。

 

(5)リチウムイオン電池自体は、発火や爆発が起こりかねない製品ですから、近年の製品は安全性に磨きをかけているはずです。利用者が普通にやってしまう電気的ショック程度では事故が起こらない製品にせざるをえません。別の言い方をすれば、「誰でもできる電池復活法」といえるほど簡単なら、たいてい安全でしょう。

 

 それで、冒頭のiPadについてですが、残念ながら、これだけはいまだに再充電に成功していません。iPadとして最初に出た製品でしたから、買ってから4年半程度経っています。その程度の年数なら、ニセの過放電にすぎないと推測するのですが、頑強に充電を拒んでいます。

 

 どうもアップルの製品はいつも厄介です。接着剤止めなので、簡単には分解できません。技術者が自分なりの使い方をしたいと思っても、アップルが使い方をひどく制限していて、しかも技術者の見方としては、あまり感心しない設計やデザインになっていることが多いです。最初のiPodのときから、私はがっかりしていました。

 

 なのに、なぜ評判がいいかというと、マスコミで書くレビュアーにいろいろ手を回して、無理やりアップル伝説を作り上げているにすぎないのではないかとも推測します。まともに説明書も添付しない製品で、使い勝手ももっと工夫ができるはずだと思うのに、なぜかマスコミではほめ上げるばかりです。いつかその反動が起こりかねないでしょう。

 

 少なくとも、ニセの過放電に対処できないという設計の不備か、あるいはこの程度の期間で真の過放電に陥らせてしまう製品だということが判明しただけでも、私自身がアップル製品に抱いていた疑念に対して、技術的に多少の立証ができたのかもしれません。アップルさん、もう少しユーザーに親切な設計にしてください。本来はユーザーが自分で対処できるはずの不具合で、高額の修理代を取ろうとしないでいただきたいです。

 

 なお、私は京大の電子工学科を卒業していますから、電子機器の組み立てや修理などの手際はそんなにデタラメではありません。大昔は高性能ステレオアンプを自作したり、個別部品製のテレビの修理ぐらいはできました。デジタル機器ならもっと得意で、予算1500万円の並列処理装置をすべて自分で設計して、学生にはハンダ付けにいっさい手出しをさせませんでした。しかし、いまはもうそんな能力はありませんが。

 

 

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